リテールメディア広告6,066億円へ──2029年1.3兆円予測の読み方

MARKETING FORESTby Flourishing Charm

「リテールメディア」という言葉が国内で語られ始めてから数年が経ち、いよいよ予算計画上で無視できない規模になってきました。2026年1月に公表された最新の市場調査では、国内のリテールメディア広告市場が2025年に6,000億円を超えたと推計され、2029年には1兆円を大きく上回るとの予測が示されています。本記事では、この調査結果を一次情報にあたって整理したうえで、事業会社のマーケティング担当者が「自社は今どう向き合うべきか」を判断するための実務的な論点をまとめます。

目次

最新調査が示す市場規模:2025年は6,066億円、前年比129%

CARTA HOLDINGSとデジタルインファクトは2026年1月27日、共同で実施した「リテールメディア広告市場調査」の結果を公表しました。同社のリリースによると、2025年の国内リテールメディア広告市場は前年比129%の6,066億円で、今後もEC事業者・店舗事業者双方の取り組み拡大を背景に、「2029年には1兆3,174億円規模に拡大することが見込まれます」(CARTA HOLDINGSのニュースリリースより引用)と報告されています。

この調査は、広告主によるリテールメディア広告への支出総額を市場規模と定義し、2025年までの推計と2026年から2029年までの予測を行ったものだと説明されています。つまり「リテール企業の広告事業の売上」ではなく「広告主が実際に投じた金額」を基準にした数字であり、予算を持つ側の視点に近い指標である点は押さえておきたいところです。

また調査結果を紹介したメディア記事では、2025年の内訳のうち大手EC事業者向けが5,236億円を占め、市場の成長を牽引していると報じられています。生活者のEC利用額の拡大に加え、認知から購買までをカバーするフルファネル型の広告商品が拡充されたことが、大手広告主の需要を支えているという見立てです。

「EC型」と「店舗型」は別物として設計する

数字の内訳が示すとおり、リテールメディアと一口に言っても中身は大きく2種類に分かれます。実務では、この2つを同じ枠で語らないことが最初のポイントになります。

EC型リテールメディア

ECモールや小売のオンラインストア内に配信する検索連動型・ディスプレイ型の広告。購買データと広告接触が同一プラットフォーム内で結び付くため、売上への貢献を比較的短いサイクルで検証しやすい。市場規模の大部分を占めるのはこちら。

店舗型リテールメディア

店頭サイネージ、アプリ内クーポン、レジ連動の販促などオフライン接点を活用するもの。店舗DXの進展で在庫・売価・棚割との連動が進む一方、広告接触の計測は代替指標に頼る部分が残り、設計の難易度は高い。

報道では、これまで営業部門の販促費として扱われがちだった店舗側の取り組みも、購買データによって効果が可視化されることで、広告投資として評価され始めていると紹介されています。予算の所管が販促費からマーケティング予算へ移り始めているとすれば、社内での稟議の立て方そのものが変わることになります。

なぜいま伸びているのか──3つの構造要因

成長の背景としてよく挙げられるのは、次の3点です。

  • ファーストパーティデータの価値上昇:サードパーティCookieに依存したターゲティングと計測が難しくなるなかで、小売が持つ実購買データは代替可能性の低い資産になっている。
  • 購買の直前に接触できる:カート投入や検索の直前という「意思決定に最も近い場所」で露出できるため、短期の売上との相関が見えやすい。
  • 小売側の収益構造:粗利率の低い小売業にとって、広告事業は利益率の高い新規収益源になる。だからこそ供給側の商品開発が急速に進む。

なお、リテールメディアの成長は日本固有の現象ではありません。海外市場についても継続的な成長予測が各社から示されていますが、調査主体や定義によって数字の前提が異なるため、国内外の数値を単純に並べて比較するのは避けたほうが無難です。

POINT

市場規模の数字は「調査主体・定義・対象範囲」の3点をセットで確認する。特にリテールメディアは、店頭販促費をどこまで含めるかで金額が大きく変わる領域です。社内資料に引用する際は、必ず出典と定義を併記しましょう。

実務者が直面する壁は「効果測定の比較可能性」

ここからはFlourishing Charmとしての見解です。相談を受ける中で最も多い課題は、市場規模の大小ではなく「複数のリテールメディアを横並びで評価できない」という点にあります。

プラットフォームごとにインプレッションやコンバージョンの定義、アトリビューション期間、レポートの粒度が異なるため、A社の媒体で出たROASとB社の数字を単純比較すると判断を誤ります。さらに、リテールメディアは購買直前の接触が多いため、本来その媒体がなくても買っていた需要を成果として計上してしまう「刈り取りの過大評価」が起きやすい構造を持っています。

だからこそ、媒体レポートの数字だけで判断せず、増分(インクリメンタル)を確かめる仕組みを併走させる必要があります。実務的には、地域や店舗を分けた出稿テスト、期間を区切った停止テスト、そして集計データで全体の予算配分を評価するマーケティングミックスモデリング(MMM)の併用が現実的です。MMMは個人データに依存せずマクロな集計データを扱うため、プライバシー規制下での効果測定手法として再評価されているという解説が複数の調査会社から示されています。

小さく始めるための4ステップ

初期投資を抑えつつ検証したい場合、次の順序で進めると社内合意を取りやすくなります。

1

自社商品の売上構成比が高いリテーラーを2社程度に絞る。網羅より、意思決定に足る母数が取れる場所を優先する。

2

評価指標を先に決める。ROASだけでなく、新規購入者比率やカテゴリ内シェアなど「増えてほしい変化」を定義しておく。

3

比較条件を作って出稿する。対象商品・対象エリアを分け、非出稿群との差分が読める設計にする。

4

媒体レポートと自社の売上データを突き合わせ、差分の理由を言語化して次の配分に反映する。

特に2番目を飛ばすと、レポートに並んだ数字の中から都合のよいものを後から選ぶ「指標探し」に陥りがちです。市場が伸びている領域ほど、社内では「やらない理由の説明」が求められます。だからこそ、最初に評価軸を決めておくことが、投資判断の質を守る現実的な防波堤になります。

まとめ:チャネルではなく「データ連携の入口」として捉える

リテールメディアは、単に広告枠が増えたという話に留まりません。小売の購買データに触れる接点であり、商品開発や棚の交渉、需要予測にまで波及しうる取り組みです。市場が2029年に1兆円規模を超えると予測されるなかで、いま検証の型を持っている企業と、供給側の営業提案に都度対応するだけの企業では、数年後の交渉力に差が出る可能性があります。

まずは自社にとって重要なリテーラー1〜2社で、増分を測れる小さな実験を回すこと。それが、拡大する市場に振り回されずに乗るための最短ルートだと考えています。

参考

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