「売上が思ったように伸びない」——経営者や担当者から最も多く聞く悩みです。しかしこの一文のままでは、何をすればいいのか誰にも分かりません。広告を増やすのか、サイトを直すのか、値上げするのか、判断の根拠がないからです。
マーケティングの入門として最初に身につけたいのは、難しいフレームワークではなく「売上を分解する」というたった一つの習慣です。今回は、実務未経験の方でも今日から使える3つの数字と、その読み方の注意点を整理します。
売上は3つの数字の掛け算で表せる
Webサイトやネットショップを持っている場合、売上はおおまかに次のように分解できます。
- 売上 = 訪問数 × CVR(購入率) × 客単価
たとえば月に10,000回の訪問があり、そのうち1%が購入し、1回あたり平均8,000円買っているなら、売上は10,000 × 1% × 8,000円 = 80万円です。実店舗であれば「来店客数 × 買上率 × 客単価」と読み替えれば、まったく同じ構造で考えられます。
この式の価値は、「売上が伸びない」という曖昧な悩みを「訪問数が足りないのか、買ってもらえていないのか、単価が低いのか」という答えのある問いに翻訳してくれる点にあります。
直近3〜6か月分の「訪問数・購入件数・売上」をカレンダー月ごとに並べる
購入件数÷訪問数でCVR、売上÷購入件数で客単価を計算する
3つの数字のうち、どれが下がった(伸びていない)のかを特定してから打ち手を考える
押さえるべき用語は3つだけ
① 訪問数(セッション)
「何人が来たか」ではなく「何回の訪問があったか」を表す数字です。Googleアナリティクス4(GA4)の公式ヘルプでは、セッションについて「30 分間操作がなければセッションが終了します(タイムアウトします)」と説明されています(出典:アナリティクス ヘルプ「[GA4] セッション」)。つまり同じ人が朝と夜に見に来れば、訪問数は2になります。
広告のクリック数と訪問数がぴったり一致しないのは、この計測ルールの違いによるものです。入門段階では「一致しないのが普通」と割り切り、同じツールの数字を継続して追うことを優先しましょう。
② CVR(コンバージョン率)
訪問のうち、目標とした行動(購入・問い合わせ・資料請求など)に至った割合です。購入件数÷訪問数で計算します。100回の訪問で2件の問い合わせがあればCVRは2%です。
なお、GA4では2024年3月以降、レポート上の「コンバージョン」が「キーイベント」という名称に段階的に変更されたと複数の専門メディアで解説されています。Google広告側のコンバージョンと計測方法が異なり数値が一致しない、という混乱を避けるための変更だと報じられています。画面上でCVRが見つからない場合は「キーイベント レート」を探してみてください。
③ 客単価
1回の購入あたりの平均金額で、売上÷購入件数で求めます。単価アップは「値上げ」だけでなく、まとめ買いの提案や関連商品の併売、定期購入への切り替えなど複数の手段があります。
POINT
3つの数字は必ず「同じ期間・同じ範囲」で揃えて計算すること。訪問数はサイト全体、購入件数は特定商品だけ、という混在が入門者に最も多い計算ミスです。
どこから手をつけるか──掛け算なので「一番弱い数字」が効く
掛け算である以上、極端に低い数字を放置したまま他を伸ばしても効率は上がりません。訪問数が月300回しかないのにサイトの細部を作り込むより、まず母数を増やすほうが効きます。逆に訪問は十分あるのにCVRが極端に低いなら、広告費を積む前に入口の内容や購入手続きを見直すべきです。
訪問数を増やす打ち手
広告出稿、検索経由の記事、SNS、紹介など。成果は比較的読みやすいが、多くの場合お金か時間の追加投入が必要になる。
CVR・客単価を上げる打ち手
説明文の改善、価格や送料の見直し、入力フォームの短縮、セット販売など。追加費用が小さく済みやすいが、効果検証には一定の件数が必要。
Flourishing Charmとしての考えを述べると、予算に限りがある中小規模の事業では「まずCVRと客単価の改善から着手し、1訪問あたりの売上(売上÷訪問数)を上げてから集客に投資する」順序が有効な場面が多いと考えています。1訪問あたりの売上が上がっていれば、同じ広告費でも回収できる金額が増えるためです。
数字を見るときの3つの落とし穴
- 母数が小さいときの%に振り回されない:訪問50回で購入1件ならCVR2%ですが、もう1件増えれば4%です。件数が少ないうちは率よりも実数を見るほうが判断を誤りません。
- 平均は分けて見る:全体の客単価が横ばいでも、新規客と既存客に分けると片方だけ落ちていることがあります。分解は「3つの数字」で終わりではなく、必要に応じてさらに分けていく作業です。
- 単月だけで結論を出さない:季節性やキャンペーンの影響があるため、前年同月や3か月移動平均と併せて見るのが安全です。
POINT
オンラインだけで判断しないことも重要です。経済産業省の調査では、2024年の物販系分野のEC化率は9.78%と公表されています。多くの業種では購買の大半がいまだ店頭や商談で起きており、Web指標は「入口の状態を映す鏡」として扱うのが現実的です。
今日からできる第一歩
まずはExcelやスプレッドシートに「月・訪問数・購入件数・売上」の4列を作り、CVRと客単価を計算する列を足すだけで十分です。数字が3か月分並ぶと、勘ではなく差分で会話ができるようになります。
そして次の段階では、1人の顧客が生涯にもたらす売上(LTV)と、顧客獲得にかけたコスト(CAC)の関係へと視点を広げていきます。今回の3指標は、その手前にある共通言語です。派手な手法よりも、まず自社の数字を分解して言葉にできること。それが遠回りに見えて最短の入門ルートだと、私たちは考えています。
参考
- 経済産業省「令和6年度電子商取引に関する市場調査の結果を取りまとめました」
- アナリティクス ヘルプ「[GA4] セッション」
- アナリティクス ヘルプ「[GA4] アナリティクスのディメンションと指標」
- アユダンテ株式会社「[GA4]キーイベントとコンバージョンの解説」
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